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2011年10月31日  舞台劇『ブリッジ』

仮面のかぶり方

今日は午後2時から、舞台劇「BRIDGE」のリハーサル。

俺が劇場内に入ると、不穏な空気が流れていた。


そして、どういうワケか、女装男役の「ドナルド」と、
ミュージシャン役の代役である「レスリー」が
舞台上でリハーサルをしていた。

実際のキャストである「スタン」は・・・、
なぜか観客席に座っている。

・・・また、何かあったのか?


なんでも、昨日のリハーサルで
またも口論になったらしい。


・・・公演初日まであと一週間ちょっとしかないのに、
いまだに「立ち位置」が頻繁に変わる事、
そして、主役の「スタン」が相変わらず
台本を読みながら演技している事に、
「女装男」役の「ドナルド」がブチ切れたのだ。


前回の公演の時、監督の「ケリー」は、
キャストにこう言っていた。

 「台本を持ちながらの演技だと、
  行動が制限されてしまうから、
  できるだけ早くセリフを覚える事!!」

だから前回の公演のキャストは、
早々にセリフを覚え、リハーサルに臨んでいたんだ。


・・・しかし、今回の公演は違った。


主役を演じる「スタン」が、キャストに向かって、

 「俺は公演初日の前日まで、
  台本を持ちながら演技するよ。
  ・・・それが俺のやり方だ。」

と、思い切り宣言してしまったんだ。


監督のケリーは「アクターズスタジオ」の
先輩にあたるスタンに全く頭が上がらないので、

 「スタンは三幕とも出演するから、セリフも三倍。
  彼は仕方がないけど、他のキャストは
  セリフを覚えてちょうだい。」

と、スタンの特別扱いを認めてしまった。


女装男役の「ドナルド」からしてみれば、
こんなに面白くない話はない。

彼自身は、もうとっくの昔にセリフを覚えているんだ。


「ドナルド」と、代役の「レスリー」の立ち稽古が終わった後、
俺と「スタン」がリハーサルを始めた。

シーンが終わるや否や、今度は「スタン」がブチ切れた。


 「もう我慢がならん!
  人を馬鹿にするのもいい加減にしろ!!
  俺に向かって、敵意をぶつけやがって!!!
  お前の事だ。  ドナルドと、 ユウキ!!
  ふざけるな!!」


・・・ええええええええええええええ!!!!!!


ちょちょちょちょ、ちょっと待って。 ・・・俺!?


 なぜ俺!? ウっソぉ!!!


俺は、スタンに敵意なんか持っていない。

むしろ、今回の公演でスタンと
演技できる事を楽しみにしていたんだ。


一体全体、スタンは何の話をしてるんだ!?


・・・スタンの話を聞くと、・・・ナゾが解けた。


なんとスタンは、舞台上で俺が演じている
「シローの敵意」の事を言っていたんだ。

・・・つまり、「俺の演技の敵意」を、
「俺自身の敵意」だと、勘違いしていたんだ。


 一体なぜ、こんな勘違いが起こるのか。


監督のケリーによれば、
これは「アクターズ・スタジオ」の演技法の弊害らしい。


通常、俳優は「役」を演じている時は、「役」になりきる。

・・・まあ、当たり前って言ったら、当たり前だ。



・・・でも、その「役になる」プロセスは、俳優によって全く違う。


例えば、多くの俳優は、こういうプロセスで「役」になる。



役を演ずる前に、自分が用意した「役のお面」をかぶるのだ。


・・・もちろん、このお面は目には見えない。


この「お面」の製作過程を「役作り」と呼んだりもする。

作るのに1秒も掛からない役者もいれば、
数ヶ月かけて、凝った「お面」を作る役者もいる。


「お面のかぶり方」も、人それぞれだ。

いきなりパッとお面をかぶれる人もいるし、
かぶるのに、数時間、または数日掛かる人もいる。


「透明なお面」をかぶる人もいれば、
「ぶ厚いお面」をかぶる人もいる。


・・・とにかく、共通しているのは、
「演じている役」と、「俳優自身」の区別がある事だ。


そして、「お面」を脱ぐ事ができる。


ところが、スタンの演技法は違う。

スタンの演技法では、
「演じている役」と、「俳優自身」の区別が殆ど無いのだ。

そして、自分自身を役に変形させてしまうんだ。


・・・すると、どうなるか。

 「スタン」は「ミュージシャン」で、
  「ミュージシャン」は「スタン」

という事になってしまう。


・・・でもまあ、それはいいんだ。


ここでの問題は・・・、

 「ユウキ」は「シロー」で、「シロー」は「ユウキ」

と、思ってしまう事だ!


そして、俺が演ずる「シローの敵意」を
「俺自身の敵意」だと本気で思ってしまう事だ!


・・・なんつー、迷惑な演技法だ。ちょっと勘弁してくれ。


前回の公演で、開演2週間前に
監督と大喧嘩をしてクビになった、「デリック(仮名)」

前回の公演に、客としてやってきて、
観劇中にずっと大声で喋りまくり、公演を妨害した、「アリサ(仮名)」

前回の公演を、何度も観に来て、頼まれてもいないのに、
なぜかキャスト達に偉そうに演技指導をしていた、「テッド(仮名)」。

・・・そして、監督の「ケリー」と今回の主演の「スタン」。

みーんな、「アクターズ・スタジオ」の正会員だ。


一体、どーーーなってんだ! ここは。


なんにせよ、誤解が解けて良かった。
色々な俳優がいるなぁ。ホントに。

公演初日まで、あと11日!

投稿者 ユウキ : 23:16 | コメント (5)

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